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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2018年度 第54回 受賞作品

西日本新聞社賞

笑顔の行方

福岡市立  三苫小学校6年久保 信乃

 「信乃ー、これ描いて。」
教室を横切って、西島さんの大声が聞こえてきた。卒業アルバムの製作の時間。それにのせるプロフィールの似顔絵をたのまれた。
「残るものやけん、自分で描かんね。」
「絵は苦手なんよ。信乃なら任せられる。」
私の絵でいいのかな、と思いながらも、引き受けてしまった。
 さあ、どう描こう。いろんな顔の西島さんを見てきたが、やっぱり、私の好きな元気な西島さんを描きたい。目をギュッとつぶって、思い切り口を開けて笑う顔にしよう。
 中休みに、西島さんの似顔絵を描いていると、後ろの席の松本君が、おどろきの一言。
「久保さん、おれのも描いて。」
困った。私は、イラストを描くのが好きだが、男の子の顔を描くのは慣れてない。でも、できるだけ描こう。おしゃべりで、面白い松本君。サービスして、かっこ良さもプラスしようかな。
「わーっ、上手い。けど、イケメン過ぎ。」
絵をのぞきこんだ川岸さんが笑ったが、松本君は満足気だ。
「似てますよ。おれそっくり。」
「何言ってんの。」
「えー、見せて。」
と、いつの間にか、周りに集まって来ていたみんなが盛り上がった。
「ねえ、私のも描いて。」
「おれのも。」
机が紙でうまっていく。絵が描けることは、単純にそれだけでうれしい。でも、それ以上に、みんなと一緒に描いていることがうれしかった。
「できたけど、これでいいかな。はい。」
ドキドキしながら手渡す。白川君は、
「おれってこんなふうに見えるん。」
と、てれくさそうにしばらく見ていた。
「かわいい。ふん囲気が似とるやん。」
「アルバム出来たら、寄せ書きしようよ。」
男子も女子も混じって、こんなに大勢で盛り上がるのは久しぶりだ。修学旅行以来かな。
「さて、次は吉田君を描くぞ。」
その時、とつ然、今まで感じたことのないようなさみしさがこみ上げてきた。
「楽しいのに、なぜ。」
みんなのふざけてはしゃぐ声。その中にいる自分。ぐるっとみんなを見回した。
「わかった。私、このしゅん間を手放したくないんだ。それほどみんなが大好きだったんだ。六年かけて、いい仲間たくさん出来てたんだな。直接、大好きと言うのははずかしいから、思いをこめて、似顔絵描くね。」そして私は、鉛筆をぎゅっとにぎり直した。
 後日、なんと、賞状係から賞状をもらった。
「卒業文集の絵を書いてくれました賞」そこには、私愛用の色鉛筆のケースのイラストと、私の似顔絵が描いてあった。その私は、ぽかぽかした笑顔だった。

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