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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2018年度 第54回 受賞作品

西日本新聞社賞

おばあちゃんのリードオルガン

大牟田市立  羽山台小学校4年平川 千野

「嫁入り先が決まったよ。」
おばあちゃんがお母さんにそう言った。おばあちゃんがお嫁に出そうとしているのは、七十年くらい前に買ったリードオルガンのことだ。お母さんが小さい頃、オルガンに合わせて歌ったり、学校で習った曲を一緒に演奏したりしていたそうだ。
 私はこの話を聞くまで、オルガンという楽器を見たことがなかった。それは、廊下のすみに茶色の布でおおわれてほこりをかぶって眠っていたからだ。
 教会で讃美歌の伴奏をしているおばあちゃんのお友達がいて、オルガンをずっと探していると聞き、お嫁に出すことを決めたそうだ。いくつか出ない音があったのを、
「こわれたままじゃ送り出せん。」
と修理をする人を探してきて、おばあちゃんは無事に送り出したのだ。
 しばらくして、おばあちゃんとお母さんと妹と、お嫁入り先に見に行った。オルガンは見ちがえるほどきれいになっていた。ピアノよりけんばんも少なく、小さいけれどとても立派に見えた。ひざの所には音の強弱レバー、足元には空気を送るためのペダルが並んでいる。
「いい音が出るよ、弾いてごらん。」
とお友達から言われて、私はオルガンを前に少し緊張して音を鳴らした。
 最初は空気がすーっとぬけてしまい、けんばんだけがパカパカと音をたてた。
「呼吸を合わせて。ペダルは両足交互に踏むのよ。」
そう教えてもらい、もう一度弾いてみた。空気をたっぷり吸いこんだオルガンからは、ピアノとちがって優しくやわらかい音色が響いた。
 最後に、讃美歌を演奏してもらった。その音色はオルガン全体が呼吸をし、生きているように感じた。そして静かで温かい気持ちになった。おばあちゃんは少し涙ぐんでうなずきながら、一つ一つの音を丁寧に聴いているように見えた。
 「大切に弾いてくれる人に出会えてよかった。」
お嫁に行ったオルガン、いつまでもきれいな音を響かせてほしいと願った。

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