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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2017年度 第53回 受賞作品

日本農業新聞賞

兄の背中

北九州市立  熊西中学校2年間内 樺音

 私には兄がいる。背がとても高くて、優しくて││。でも、よく怒られていて、残念で、少し変な人だ。だから私は、小さいときからよく怒られている兄の背中を見て学んできた。そんな兄も高校一年生だ。そして、とても少なくはなったもののまだ怒られている。私もまた、その背中を見て学んでいる。

 だが、一年前、私はその背中からいつもとは違う雰囲気、覚悟を感じた。

 一年前というと、兄は中学三年生だ。受験生として勉学に兄は励んでいたと言いたいところだが、少なくとも私にはそうとは見えなかった。元々兄には、ずいぶん前から志望する高校があった。そして私は当然、兄はスムーズにその高校に行くものだと思っていた。だが違った。家族や親戚、先生からの説得があったのだ。それは、兄にその高校へ行くためには足らないものが少しあったからだった。私だったら、きっとそんなたくさんの大人から反対されたら心が折れてしまうだろう。だが兄は、諦めなかった。誰から説得されても、その高校に行くと言って聞かなかった。

 私はそのことを知ったときは、特には何とも思わなかった。だが、意識していけば、だんだんと見えてくる兄のたくさんの努力があった。私は兄の努力が「見えなかった」のではなく、「見ようとしなかった」んだとそこで知ることになる。兄の努力を知ってからは、説得されていることに怒りがあった。説得している人の気持ちが分からないわけではなかったが、分かりたくなかった。

 兄がその高校に行きたい理由は、テニス部が強かったからだ。兄は中学一年生のときにテニス部に入って、とてもテニスにはまっていた。飽きっぽかった兄が、とてもテニスにはまっていたから皆嬉しがっていた。私も嬉しかった。そして兄は、二年生で転校してからはテニスクラブに通っていた。兄は本当にテニスが好きだ。だから私は、兄がその高校に行きたいのなら、反対なんてしてはいけないと思った。

 そして、私は絶対に兄を応援し続けようと決めた。

 母が、

「樺音はお兄ちゃん、受かると思う?」

と聞いてきた。私は、

「うん。」

迷わず答えた。理由も聞かれたが、

「なんとなく。」

と言った。確かな理由なんて分からなかった。ただ、悔しかったのだ。親戚で集まったときも兄の受験の話になる。

「樺音は『受かる』って言うんですよ。」

すると誰かが聞いてくる。

「そうなん?」

「うん。」

「そっか、そっか?。」

「うん。」なんて答えたが、心の中では、じゃあ逆になんで信じないの?なんでそんなこと言うの?信じるなんて当たり前でしょ。と思っていた。兄が嬉しそうにしていた。うん、頑張って。私が願うくらいじゃ何も変わらないけれど、少しでも力になれていればいいなと思っていた。

 受験がもう目の前に近づいてきた、冬休み。初詣ではみんなで兄の受験の成功を祈った。兄の様子はあまり変わったようには思えなかったが、確かに努力していた。結局、志望校も変えなかった。少しの心の揺らぎはあったのかもしれないが、私はただただ頑張ってほしいと思っていた。

 そして、受験の日。私は帰ってきた兄を見て安心した。全力を注げたように見えたからだ。あとは結果が出る日を待つだけだった。

 ついに、合格発表の日。合格者は、同じ時間に中学校の武道場に集まることになっていた。私はいつもどおり学校があったが、そわそわしていた。すると、こっそりと先生が教えてくれた。

「お兄ちゃん、おめでとうやったよ。」

その言葉は私の心を埋めるには充分すぎるものだった。このような感覚を「胸がいっぱいになる」というのだと思った。そして私は反対していたすべての人に「ほら!」と心の中で叫び続けていた。

 今、兄は志望していた高校に入り、毎日過ごしている。生活リズムの変化など、大変なことはたくさんこれまでもこれからもあると思うが、兄はいつ聞いても「楽しい」と言う。だから、それでいいと思う。そして、テニス部にも入り、本当に楽しそうだ。土日の送り迎えにたまに私も行くが、本当に楽しそうに今日の出来事を話している兄を見て、いいなと思う。

 そう、私は来年受験なのだ。正直とても不安だ。いろいろ心配はある。だが、兄を見て、私は人一倍努力しようと思っている。今までの私の人生のいつのときにも勝る努力をして必ず合格してみせようと思う。神頼みもいいが、私は自分の実力で自分の未来を切り開いていきたい。そう、強く願っている。

 そして、私はこれからも兄を応援し続ける。残念で少し変で、強い意志をもつ兄を。それから、私は忘れることはないだろう、合格発表の日、帰ってきた兄が見せたあの笑顔、そしてあの背中を。

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