2017年度 第53回 受賞作品
日本農業新聞賞
音楽と共によみがえる
国立大学法人 福岡教育大学附属福岡小学校5年小川 悠花
わたしの学校では、卒業式で歌う曲は毎年五年生が伴奏することになっている。三学期に伴奏のオーディションが行われるため、今わたしはそれに向けて練習中だ。どんなふうに演奏したらみんなが歌いやすいかな。一曲一曲、時には歌を口ずさみながら、イメージをふくらませていく。課題は山積みだ。
この間、「あおげばとうとし」の曲の練習をしていたときのこと、お母さんがなつかしそうな顔をして話しかけてきた。
「この曲が流れると、どことなくしんみりとした気分になる んよね。」
お母さんは、自分が卒業式のたびに歌ってきたこの曲を聞き、その都度感じてきた色んな思いをなつかしんでいるようだった。
こんな感覚、わたしも味わったことがある。わたしは幼稚園生のころ、「おはようクレヨン」という歌が大のお気に入りでよく歌っていた。この歌に合わせてクレヨンでお絵かきするのも楽しかった。ある時、わたしが通っている音楽教室でこの曲が流れていたことがあった。なつかしさがこみあげてくると同時に、わたしの目の前には、自分が幼稚園生だった当時の世界が広がった。一緒に歌いながらお絵かきしている友達の顔、大好きなピンク色のクレヨンで描いたチューリップの絵、クレヨンの色に合わせて作った替え歌の歌詞…。おどろくことに、その時使っていたクレヨン独特のにおいまで感じられた。音楽には、音楽と共に記憶された光景や感情を丸ごと呼び起こす不思議な力がそなわっているなと思う。
先日、こんなこともあった。家族でドライブしていたときのことだ。ランダムに流れてくる曲を聞いていると、
「うわぁ、なつかしい。」
お父さんとお母さんが口をそろえて言った。わたしには少し古くさいなと感じた曲だったけれど、二人にとっては思い出深い九十年代の歌よう曲だったらしい。
「ちょうど大学一年のときやあ。みんなでわいわいやってた なぁ。」
「そうなん。わたしはこの曲聞いたら重くなる。受験真った だ中だったもんね。」
同じ曲から思い起こされる気持ちは、お父さんとお母さんとでそれぞれ違っていた。音楽は色んな思いの中に溶けこむことができ、それぞれの記憶の中に根付いていけるんだなと感じる。
今回卒業式で歌う歌に、六年生や先生方、わたしたち在校生はどんな思いを寄せ、その思いを歌の中に刻んでいくのだろうか。きっとこれらの歌を再び聞いたり歌ったりしたとき思い出される記憶は、色んな出来事と結びつき、一人一人違った色となって浮かび上がっているんだろう。そんな思い出の一ページを作る歌の伴奏は責任重大だ。気持ちのこもった音を奏でながら、六年生を送り出してあげたい。オーディション受かるといいな。