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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2016年度 第52回 受賞作品

福岡県知事賞

僕と父の大仕事

久留米市  屏水中学校1年今村 謙杜紀

 毎年の大みそか、僕と父の大仕事が始まります。大そうじやおせち作りも終わったころ始める大仕事、それは年越しそばを打つことです。小学校一年生の時からずっと続けています。

 「さあ始めるぞ!」

父のかけ声から始まるそば打ち、十割そばといきたいところですが、打つのが難しいので僕の家では八割そばを打ちます。久留米産のそば粉三二〇グラム、中力粉八〇グラム、水二〇〇ミリリットルこれが家族四人分の量。大きなこね鉢にふるったそば粉と中力粉を入れて、少しずつ水を加えます。ポイントは、指の腹で粉全体に水を行き渡らせてからこね始めることです。耳たぶくらいの固さになり一つにまとまったら、次は延ばしです。打ち粉をふり、大きなめん棒を使って、破れないように慎重に四角に延ばします。麺切りは、太すぎても細すぎても駄目、包丁の重みだけで切ります。そば打ち完了。

 打ち終わったそばは、煮えたぎったお湯でゆで、冷水で冷やし少し濃い目の汁につけて食べています。

「そばの香りがしておいしいね。」

と母や姉が言ってくれます。確かに父と一緒に打ったそばは、職人さんが打ったそばよりずっとおいしいと僕は思います。

 僕と父のそば打ちが始まったきっかけは、

「ゆずの、そば、好きやろ? 家でそば打って食べたいやろ?」

という父の言葉に僕が、

「うん、食べたい、そば、おいしいよね。」

と言ったことでした。それからしばらくして父の広い畑に、秋なのに雪が積もったように白いそばの花が一面に咲いて、とてもきれいだったのを今でも覚えています。大みそかに打つそばのそば粉は、もちろん父が栽培したそばを収穫したものです。

 父は植木の生産をしていますが、地域の人たちと耕作放棄地の解消を目標に七年前くらいから、耕作放棄地でそばの栽培を始めました。現在、農業をする人の高齢化で耕作放棄が増加し荒れている土地が多く全国で問題になっていますが、久留米市も例外ではありません。そして、久留米市の耕作放棄地の約三〇パーセントが僕の住んでいる屏水校区の草野町と山本町地区です。だから、父たちは、町のためにそばの栽培をしています。今までは、そば畑がたくさん広がり、JR九州のななつぼしが通る久大本線から春と秋に風にさわさわと揺れる白いそばの花を見ることができ、耳納連山と合わさってとてもきれいです。

 また、収穫されたそばは、久留米の地域の特産品にしていけるように、『ほとめきのそば』という名で乾麺の製造もしています。収穫祭という地域のイベントで、かけそばの販売を僕も手伝うのですが、お客さんが「すごくおいしい」とみんな笑顔で言ってくれるのでとてもうれしいです。『ほとめき』とは、筑後弁で『おもてなし』という意味で、久留米を訪れる人、住んでいる人、皆におもてなしをする心を込めてつけられたそうです。

 そばを栽培することは、町おこしだけでなく、生まれ育った地域を大切に守ることができると僕は思います。父はいつも疲れて帰ってきます。僕は父の肩をもみながら、

「仕事、楽しくないと?」

と父に聞いたことがあります。すると父は、

「仕事は楽しいけど、すごく忙しい。」

と、話していました。特にそばは、何十反もの広い畑をトラクターで耕して、種をまき、管理して収穫するのです。そして、乾燥からとうみがけという作業までとても大仕事です。だから僕は、父の身体がとても心配になりますが、疲れてはいるけれど楽しいと働いている父は、すごいと僕は思っています。父は農業を継いでほしいと言いませんが、僕は父の仕事を手伝いたいと思います。しかし、このことは今は、父には秘密にしておきます。僕が、そばを一人で打てるようになったら、

「農業をする!」

と言うつもりです。その時、父がどんな顔をするかとても楽しみで、考えるだけでもニヤニヤしてしまいそうです。まだしばらくは、父と一緒にそばを打ちたいのでおあずけですが…

 「さあ始めるぞ!」

いつもと同じ父の声、「よし!」今年の大みそかも僕と父の大仕事が始まります。

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