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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

RKB毎日放送賞

国立大学法人  福岡教育大学附属福岡中学校3年佐々木 咲綾

 私には、目標がある。目標ができると、必ず書き込む。日頃心のどこかで憧れていたこと、そんなことをやり遂げる、という思いを打ち明ける。目標、と題が付けられたメモに。叶わないと思うものばかりだった。中学一年生の時、初めての定期テストで三十六点という大失敗を喫したときには、学年一位を。生徒会の係を始めたときには、全校生徒をつなぐ企画の成功を。達成できるとは、思いもしなかった。しかしその一番上、つまり一番初めに書き込んだ目標は未だに達成されていない。そこに書かれているのは、「夢を叶える」という一行だった。
 「あなたの将来の夢は何ですか。」
 「今後どのように生活していきますか。」
キャリア教育で、進路選択で、幾度となくこの問いに当たってきた。級友の多くはすでに決めているようだった。でも私は、仮にどんなに難しい数学の証明や英語の長文をすらすらと解けるようになったとしても、この問いには答えられないだろう。将来やりたいことなら、ある。一日中本を読み続けること。でも、夢ではない。
 夢とは、何だろうか。
 漠然とした不安を抱えて、私は毎日を過ごした。
 そんな中、フロンティアタイムの探究の話があった。私の学校では、一年生の終わりから三年生の秋、冬までの約二年間、自分でテーマを決めて調べたいことを探究する。インターネットを使って調べまとめるのではなく、工夫した自分だけの答えを出す。街頭インタビュー、専門家探し、大学訪問、さらには実験までを行う人もいる、本格的なものだ。私は去年まで、物語の原点とも言える昔話を探究していたが、どれだけ進めてもなぜかしっくりこなかった。
 私が本当にやりたい探究は、知りたい答えは、何なのか。
 手がかりを探してノートを漁る。
 「目標」と題がつけられたもののところで手が止まった。
 「決めたことを最後までやり切る」
 「家族や周りの人を喜ばせる」
 決意が並ぶ。
 そして、ある項目を見た瞬間はっとした。
 「もう二度と誰にもあんな思いをさせないようにする」
 私は三歳の頃、東日本大震災に遭った。当時の私に理解できたことはほとんどなかったが、日常が一瞬で失われたことは今でも確かに覚えている。
 怖い。思わず手を握りしめた。でも、私がするべきなのは、私がやりたいのは、日常を守ること。できるだけ壊れにくいように、つくっていくこと。だから私がやるのは、
 「防災。」
 私はテーマに「防災」を据えた。残り一年でできることは少なかったが、やれることはやろう、と決めた。
 資格を取った。知識が入ると全く違って見えた。詳しい意見を聞く専門家として、市役所の方にもお願いできた。一生徒の自分では思い浮かばない視点をくれた。少しずつ、思い描いていたものが形になっていくのが嬉しかった。でも、私は自分のテーマ名を言うのが怖かった。防災なんて、面倒なこと、いつかにすれば良いのに。何度となく聞いた言葉を投げかけられるのが怖かった。でもやはり、この日常がなくなる方がもっと怖かった。
 そして、発表の日になった。私は全校生徒の前で発表できる機会を得た。ここで発表すれば、全校生徒と先生、合わせて約四百人には聞いてもらえる。もちろん、防災だけで平和な毎日が送れるわけではない。戦争、事件、事故。さまざまな問題を解決しなければ、それが得られることはないだろう。ただ私は、私が一番できる方法でそれを助けていく。これはその、きっかけだ。
 決意を新たに固めつつ、スライドをめくる。
 「それでは、始めていきたいと思います。」
 やっと、私には夢ができた。ふっと微笑みつつ、昔の自分に何か言うとしたら、何と言おうか、とふと考える。大変だったね、だろうか。今、私はいろいろな人に会って、いろいろな人がいろいろなところで傷つき、悩んでいることを知りました。人それぞれ、いろいろな思いを抱えて、そこに立っているのだと思います。誰か一人でいい。私の行動で、重い気持ちが少しでも軽くなれば良いな。もう大丈夫。これからちょっとずつ、ちょっとずつ、溶かしてほぐしていけば。私はそんな手伝いを、していくんだ。
 「ありがとう。」
 私が、誰かが、そう言って笑うその日まで。
 私の夢は、続いていく。

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