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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

RKB毎日放送賞

ステージ

福岡市立  照葉北小学校4年部良本 直緒

「ピーピーピーカチャ。」
車が止まった。車から出て会場まで歩いた。そう、今日は特別な日。ピアノのコンクール予選当日。今年こそは予選通かし本選に進みたい。会場に入ると前のグループの演奏が聞こえた。ピアノの音色しか聞こえない、この静けさが私の緊張感を高めた。
「直緒ちゃん、もう一度楽譜見たら。」
たくさん書き込んだいつもの楽譜を母がくれた。でもあまり見ることが出来なかった。いよいよ私のグループの開始時間だ。一人目の演奏を聞き終えると、私は母とぶ台そでへ向かった。うす暗く狭い通路だった。ぶ台そでに着くと演奏の音が大きく聞こえた。もうすぐ出番と知らせてくれるようだった。ぎゅっと手をにぎったり広げたり、肩をほぐしたりして体を温めた。それでも緊張していた。一人一人、順番が近づいてくる。筥崎八幡宮で父に買ってもらった大切なお守りをポケットに入れにぎりしめる。予選通か出来ますようにと、何度お願いしたことか。前の人の演奏が終わり、拍手が聞こえた。胸のこ動が速くなる。二十二番、いよいよ、私の番だ。静かに立ち上がった。私はステージに向かう。半年間ずっと思い描いていたぶ台。ライトがまぶしい。ステージの中央でゆっくりとおじぎをする。審査員の先生がはっきりと見える。足台とペダルの高さを確かめ、私が大丈夫とうなずくと母はステージを下りた。ステージ上にいるのは私だけだ。いよいよだ。胸のこ動が全身で体感できるほどだった。私は目の前にある緊張の壁を打ち破るように弾く。自分が弾いているというより、夢のような感覚でどんどん止まることなく弾いていく。最後の和音の余いんがすうっとホールから消えていった。
 その夜、予選通かの知らせが届いた。
「わー、やったーーー。」
「良かったあ、がんばったね。」
私は、うれしさと喜びと達成感で胸がいっぱいになった。半年間がんばって良かった。挑戦して良かった。その夜は、なかなかねむれなかった。

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