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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

RKB毎日放送賞

おじいちゃんのこと

私立  麻生学園小学校5年柴田 哲大

「今、何年生?」
おじいちゃんはぼくにいつもこの質問をする。毎日、ぼくが行くたび、何度も何度も。
 おじいちゃんは、ぼくが二年生の時、僕の家の近くに引っ越してきた。ぼくは、その時とてもうれしかった。でも、おじいちゃんの様子が少し変だった。
 おじいちゃんは、認知症という病気にかかっていた。だんだんと記憶がなくなっていくというおそろしい病気だった。みんなのこともぼくのことも覚えていなかった。そして、何でもすぐにわすれてしまう。おばあちゃん一人でお世話をするのが大変だから引っ越してきたのだと、お母さんが教えてくれた。
 おじいちゃんが引っ越してきてから、ぼくは毎日、学校から帰るとすぐにおじいちゃんの家に行った。ぼくが行くと、おじいちゃんは、
「ちっちゃくてかわいいねえ。」
などと言いながらぼくをなでたり、変顔をして笑わせたりしてくれた。
「おいしいよ。食べなさい。」
と言って自分が食べているせんべいを分けてくれたりした。
 ぼくの日課は、おじいちゃんと一緒にお風呂に入ることだった。おじいちゃんは一人でお風呂に入ると洗わずに出てきてしまう。ぼくが一緒に入っておじいちゃんのしわしわの背中を流したら、おじいちゃんはいつも決まって、
「気持ちいいねえ。ありがとうねえ。」
と、にこにこ笑って喜んでくれた。
 時々、おじいちゃんは勝手に出かけてしまう。でも、いつも帰り道が分からなくなり、迷子になってしまう。おじいちゃんがいなくなったら、家族総出でさがしに行く。お母さんは自転車で、ぼくは歩いて学校の近くをさがす。お巡りさんといっしょにさがしたこともあった。ある時、家から出て行ったおじいちゃんは遠くまで行ってしまった。交差点でつまずいて転び、近くにいた人が救急車を呼んでくれて病院に運ばれた。幸い大けがではなかったからすぐに帰ってきたけど、ぼくは本当に心配で心配でたまらなかった。ぼくは、おじいちゃんを困らせているこの病気が治ればいいのにと心から思った。認知症の進行を緩やかにする薬はあっても、治す薬は今のところないらしい。
 おじいちゃんは一年前に亡くなった。新型コロナウイルス感染症のせいで、病院での面会はできないままだった。おじいちゃんにほとんど会うこともできず別れが来てしまった。
 今のぼくの夢は、医師になり、おじいちゃんのような認知症の人のための薬を開発したいということだ。おじいちゃんは認知症になる前、ぼくの将来のことをとても楽しみにしていたという。おじいちゃんの期待に応えるためにもたくさん勉強して夢をかなえたい。

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