ホーム > 小・中学生作文コンクール > 福岡県知事賞 > マーボー豆腐物語

「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2022年度 第58回 受賞作品

福岡県知事賞

マーボー豆腐物語

国立大学法人  福岡教育大学附属福岡小学校6年小山 一織

 十二月、僕は歯医者へ行った。いつも通り受付を済ませて、イスに座ると右側の壁にはってある大きな紙が目に入った。「スタッフがほんわかした話」と書いてある。なにげなく読んでいると、ある一文が目に飛び込んできた。僕の胸がドキンッとした。
「ある男の子が、今日の給食はマーボー豆腐だったと教えてくれました。おいしかった?と聞くと、ママが作った方がおいしいとの返事。お母さんが作った料理が大好きなんですね。」と書いてある。「前に僕が言った話だ。」と思っていると、横にいたお母さんが、
「一織君は、ママが作ったマーボー豆腐より給食の方が美味しいって言ってたよね。」
と言った。
 六年生になって、僕は時々、思っていることと少し違うことを言ってしまうことがある。ダメだと分かっているのに、してはいけないことをしてしまったり、周りを悲しませたいわけではないのに、乱暴なことを言ってしまったりする。自分でもなぜか分からないのだけど、もやもやとして、心の中と言葉がちぐはぐになってしまう自分がいるのだ。言った後、「しまった。」と思うのだけど、もう後には引けない。いつも「ごめんね」の言葉が言えず、その言葉がのどにつまって、とても苦しい。
 このマーボー豆腐の時もそうだった。お母さんが作ったマーボー豆腐の方がおいしかったのに、僕の口からは、
「給食の方がおいしい。」
と出てしまったのだ。言った後、少しさみしそうなお母さんを見て、「うそだよ。ママの方が美味しいよ。」と言いたかったけれど、やっぱり言葉が出てこなかった。
 そのことを思い出して、なんとも言えない気持ちでいると、僕の名前が呼ばれた。僕を呼びにきた看護師さんが、
「ああ、これ、一織君が言ってくれた話なんですよ。」
と、めちゃくちゃにこやかに言った。「あーあ。」僕は心の中で思った。お母さんの方を見てはいないけれど、お母さんがびっくりしているのが、背中で分かる。僕は耳まで真っ赤になった。たぶん、マーボー豆腐と同じぐらい赤くなっていたと思う。お母さんの方をふり返らずに、僕は診察室に入った。診察が終わると、お母さんは、まだその壁にはってある紙を見ていた。そして、
「これ、一織君のこと?」
と聞いてきた。僕は小さな声で、「うん。」と言った。
 その日の夜ご飯は、マーボー豆腐だった。大きなお皿にドンッと出されたマーボー豆腐は、昼間の僕と同じぐらい赤くて、ほんわかゆげが出ていた。白いご飯に沢山のせて、一気にかきこんだ。「うん。やっぱりおいしい。」そっとお母さんを見た。お母さんと目が合った。
「こっちの方がおいしいよ。」
「そう?ありがとう。」
 僕ののどにつまっていたものがつるんと入っていった気がした。僕は三ばいおかわりをした。

ページ上へ