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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2023年度 第59回 受賞作品

日本農業新聞賞

一瞬一瞬を大切に

飯塚市立  庄内中学校1年山下 雛

 足を踏み入れるとふわっと私を包み込む花の匂い。玄関にたどり着くと、おかえりとでも言っているように「ニャー。」と鳴いてみせる猫。決して豪華な場所ではないけれど私の大好きな場所。それは祖父母の家です。
 私の祖父母の家は、私たちが住んでいる飯塚市からちょっと離れた田川というところにあります。私は祖父母が大好きです。祖父は家で育てている植物を丁寧に手入れし、勉強もできるパワフルおじいちゃんです。祖母はいつも私の味方でいてくれ、料理・お菓子作り・パン作りもできる料理家おばあちゃんです。何度も何度も言ってしまうけれど、本当に大好きです。大好きだからこそ、二人にはずっと元気に過ごしてほしいと思っています。
 しかし、大好きな祖父が「心臓の病気」で倒れてしまったのです。私はそのことを聞いた瞬間、まだ死ぬと決まったわけでもないのに泣きだしてしまいました。きっと、もう一人の祖父を亡くした時のトラウマが、残っていたのだと思います。祖母は、そんな私を抱きしめて、「お見舞いに行こうか。」と言いました。病院に着くまでに色々と考えていました。どんな顔をして病室に入っていくのか、まずはなんと声をかけるのか、など……。
 でもそんな考えは病室に入った途端、すべて消えました。ベッドから体を起こして、私の大好きな顔で笑いかけてくれていたのですから。私は「心配したんだよ〜!」と駆け寄って大泣きしたいのを堪え、ゆっくりと歩いて近寄り、「来たよ。」となるべく平静を装いました。そうすると、祖父は私の異変に気付いたのか、キョトンとして「どうした?雛らしくないぞ。」と頭をガシガシと撫でてくれました。その瞬間、私の中で張りつめていた糸がプツッと切れ、ベッドに顔をうずめて泣き出してしまいました。私が大分落ちついて、「ヒグッヒグッ。」と鼻をすすっていると、祖母も涙ぐんでいました。それを見ていた祖父が「ごめんな、心配かけたな。絶対元気になって帰ってくるから、待っててくれるか?」と。私はもちろん笑顔で「うん」と答えました。
 そして、私は祖父が帰ってくるまでの期間に、祖父の病気のことや医療で働く人々のことについて調べ始めました。まず、病気の名前は「狭心症」。原因は高血圧などの食事関係だそうです。病院で栄養バランスの良い食事をとれば、回復するとのことでした。次に、医療で働く人の職業を調べていると、ある職業に目が止まりました。それは「健康食アドバイザー」です。健康食アドバイザーとは、あらゆる角度から適切な指導・助言を行い、生活・食事改善を手助けするスペシャリストです。祖父の狭心症の原因も、かたよった食事からの高血圧でした。
 私はこれは良いと思い、祖父が帰ってきて初めて家で食べる食事は、私が作ろうと考えました。そして思いついたメニューはこれです。ナスとツナの和え物です。血圧を下げるには減塩が大切だと知ったので、なるべく塩を使わないメニューにしました。何度も何度も試作をし、祖父が帰ってくるまでに納得のいく味にすることができました。
 そして、いよいよ祖父が帰ってくる日。今まで自分がやってきたことを信じて、祖父にナスとツナの和え物を差し出しました。祖父は、最初はびっくりしていましたが、すぐに笑顔になって、「いただきます。」と手を合わせ、口に運びました。優しいけれど、食にはうるさい祖父。口に合うか心配でしたが、一口食べてもう一口、もう一口と食べ進めていくのをただただ見つめていると、あっというまに「ごちそうさまでした。」と手を合わせてくれました。うれしくて抱きつこうとすると、祖父は「美味かった。」と言うかわりに、「ただいま。」と言ってくれたのです。当たり前だった祖父の笑顔がうれしくて、私も、「おかえり。」と返していました。私は幸せをかみしめながら、これがずっと続けば良いのにと思っていますが、それは叶いません。
 生きるということは、いつか死ぬということ。誰にでも死は来ます。急に来ることもあります。だからこそ、何気ない一瞬一瞬を大切にしなければならないのです。「ただいま。」と言ったら、「おかえり。」が返ってくる。「いってきます。」と言ったら、「いってらっしゃい。」と背中を押してくれる。当たり前の幸せが、こんなにも大切だと気づくことができれば、一日をもっと良い気持ちですごせるのではないでしょうか。もし、当たり前の幸せが、急に途切れてしまっても、踏んばることができるのではないでしょうか。少なくとも、私は日々の幸せを感じて生きています。

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