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「JA共済」小・中学生
作文コンクール

2023年度 第59回 受賞作品

日本農業新聞賞

土たん場の朝

福岡市立  若宮小学校6年照井 優人

「動いてくれ。たのむ。」
始業式の朝、ダンボール工作は動かなかった。
 小学生最後の自由研究は、難しそうだけど無限に動くビー玉装置作りにちょう戦した。
 まずは、頭の中のイメージを設計図にした。高い位置をスタートにして色々なコースを通り、ビー玉が落ちる一番下の所にモーター付きのエレベーターをつけ、また一番上にビー玉を運び、無限に続くビー玉装置を作る。装置は全てダンボール。次に、カッター用下じきを準備して、その上でダンボールを切った。指は痛いし、パラパラ飛び散ったダンボールの粉はふむと痛かったけれど、どんどん切った。コンパスや分度器を使ってカーブや曲線も計算しながらコースの部品を作った。最後にメインのエレベーター作り。かっ車を二つ作り上下に設置した。次に片面ダンボールにビー玉が乗る羽根をたくさん付けたベルトを作って、上下のかっ車をぐるっと連結した。モーターの動力がかっ車に通じてベルトに伝わるように、かっ車にはすべり止めの切った輪ゴムをボンドで何本も巻きつけた。縦五十センチ、横七十センチのダンボールを土台にして、高さ六十センチのエレベーターを設置し、スイッチ付きのモーターを取り付けた。スイッチを入れてみたがかっ車が空回りするだけ。父に教えてもらおうとしたが、
「それは優人が失敗しながら自分で原因を見つけた方がいい。その過程が大切だ。」
と、望んだ答えとはちがった答えが返ってきた。ぼくは気持ちを切りかえて、失敗をくり返しながらもコースがつながり、エレベーターも動き、ついに無限ビー玉装置は完成した。
 始業式前日の夜、確認のためスイッチを入れてみた。すると、かっ車に巻いていたゴムのバキバキする音とともにエレベーターのベルトが外れた。一度ベルトをハサミで切って、ゴムをつけ直した。ボンドがかわいてないから明日、早起きして確認してみよう。夏休みの間ずっとがんばったのに。なんで動かないのか。胸が苦しくてなかなかねむれなかった。
 朝が来た。いつもより早く起きた。ボンドはかわいている。出来る。スイッチを入れた。
「グー。グー。」
動かない。体中から冷やあせが出た。止まる原因を探った。ベルトがきつくてかっ車が回らない。「やるしかない。」おく歯をぐっとかみしめてエレベーターを解体した。ベルトをゆるくするため、下のかっ車のゴムをはがした。動くけれどスムーズではない。また解体。頭の中をフル回転させ考えた。五枚のダンボールをはり合わせたかっ車は厚くて切れない。「そうだ。」工具箱からハンマーを持ってきて、かっ車の周りをつぶすようにガンガンたたいた。「動け、かっ車。」スイッチを入れた。
「ガッガッガッ、ギー。ブイーン。」
ついに動いた。ボンドは五本空になった。朝ごはんを一気に食べ、歯みがきをしてランドセルを背負って、完成したばかりの装置を両手で持った。弟が玄関ドアを開けてくれた。外は晴天だった。
 始業式の朝、ぼくは出来ないとは決して思わなかった。この朝のことをこれからも忘れず、どこまでも努力して前に前に進んでいく。

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